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リーベンクイズ/日本鬼子 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白 JAPANESE DEVILS / 2001 / Japan

リーベンクイズ/日本鬼子 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白

STORY

二十世紀最後の証言!
あなたは、本当の戦争を知っていますか! 何をされたかではなく、何をしたか!
元日本軍兵士十四人が、戦地中国で自ら行った残虐な加害行為を淡々と語る衝撃的な記録映画が奇跡の初DVD化! !

1931年の満州事変から敗戦までの日中15年戦争において、中国大陸にいた元皇軍兵士十四人が自ら行った
あらゆる残虐な行為を語った衝撃のドキュメンタリー映画。
from:amazon

A documentary recording the testimony of fourteen former Japanese soldiers as they recount atrocities and war crimes committed during the Second World War, including the the infamous Unit ...

監督
松井稔
出演
Yoshio Tsuchiya, Hakudo Nagatomi, Yoshio Shinozuka, Taisuke Funyu

IMDb Rating:

8.2

REVIEW from 「文芸ジャンキーパラダイス」

2000年代最初の年に、日本映画史上、他に類を見ない凄絶な映画が公開された。中国を侵略した皇軍兵士(日本兵)たちの、加害証言を集めた記録映画『リーベンクイズ』(松井稔監督)だ。
リーベンクイズとは日本鬼子(日本の鬼たち)の中国語読みで、中国の人々は日本兵のことをそう呼んでいた。

戦後半世紀がたち、当時を知る戦争体験者はどんどん少なくなっている。「被害」の体験は話しやすいが、「加害」の体験は話し難いため、知られずにいた戦場の実態。勇気を出して語ってくれたおじいちゃんは14人。皆が80~90歳代と高齢で、当時の肩書きは下級兵士から指揮官、そして軍医まで様々だ。
この映画の監督は、おじいちゃんたちが死んだら、もう完全に加害の事実は封印されると危機感を持ち、全国各地をまわって証言を記録してきた。ひとり2~4時間、14名約3000分の告白が、2時間40分の上映時間に集約されて、スクリーンに映し出された。

証言をしたおじいちゃんたちには、ひとつの共通点がある。全員が敗戦後に中国の戦犯収容所で平和教育を受けていることだ。それがため、彼らの存在を快く思わない人間からは「洗脳された証言者」というレッテルを貼られている。
これに対して監督は「“洗脳”と言うのなら、言われてもいい」と開き直る。おじいちゃんたちは実名で登場し、顔は隠さず、声も変えず、部隊名や出征日もすべて画面に出る。記録を調査すれば部隊の動向を追えるし、証言が洗脳の結果の“嘘”かどうかは、顔と声ですぐに分かるじゃないか、そういう自信だ。
洗脳といっても50年も昔。第一、高齢のおじいちゃんたちがそもそも嘘なんかつく必要がない。
名誉と保身を考えるなら黙っていればいいのに、様々な圧力を受けながらも体験をありのまま語る老兵士たちに「このまま黙っては死ねん」という思いを感じた。

証言の内容は、同じ人間がそこまでやれるのかと絶句するものばかり。
新兵教育では「度胸試し」の名のもとに、生きた中国人を標的にして、銃剣で刺し殺す訓練が何度も行われ、新兵はまず最初に人を殺すことに対して無感覚にされたという。
憲兵たちは自らの成績アップのために、無実の市民を捕まえては、大量処刑を行ったと語る。
中国人を虫けら同然の感覚で生体解剖(生きたままの解剖)、細菌実験を繰り返したと証言する軍医や731部隊隊員。
部下に「閻魔大王」と呼ばれた兵士が見た南京大虐殺や、軍規上は禁止されていた為、お互いが見て見ぬ振りをしていた強姦など皇軍の実態が明かされている。

なかでも中国の人々が最も恐れたのは、彼らが中国語で「三光(さっこう)」(殺しつくし、奪いつくし、焼きつくす)と呼んだ、情け容赦のない作戦だった。これは八路軍(中国軍)が補給・休息出来ぬように、巨大な無人地帯を作るという、とんでもないものだった。
無人地帯に指定された集落への無差別砲撃、兵士・農民の区別なしの殺戮、食料・家畜の略奪、生活器具の破壊、放火、そして婦女子への強姦。まさに“鬼”そのものだった。
中国人を地雷探知機がわりに使ったり、物資を運搬させた農民たちを作戦隠ぺいのために大量殺害したり、ついには食糧不足から人肉事件まで引き起こす(この辺の詳しい内容は、残酷すぎて文章には書けない)。
日米開戦によって国内の労働力不足に直面した日本は、軍による中国人狩り(労働者狩り)を行い、日本へ強制連行した。その数約4万人。牛、豚並みの扱いに、途中で死亡した者が多数いたと証言される。 (“女、子供まで殺した”と告白をするおじいちゃんの話を、部屋の隅でうつむいて聞いているおばあちゃんの姿が忘れられない)

観客の中には証言が残酷すぎると言う人もいる。それについては、「実際に残酷なことをオブラートに包んで、ただ殺しましたでは、何回観たって衝撃は感じない」というのが監督の意見だ。
誤解のないように記しておくが、この映画の製作意図は、戦犯を糾弾するものでも、加害への謝罪を要求するものでもない。描かれたのは、戦場に着くまでは家庭の父であり息子である、ごく普通の平凡な人間が、軍隊の歯車に組み込まれる過程で、いかに人間的な良心を失っていくのか、そうした人間の『心の弱さと狂気』なのだ。
悲劇を強調するような“再現シーン”はいっさいない。政治や思想から離れた中立の立場で客観的な材料だけ提供し、“あとは観客が考えて欲しい”という姿勢だ。

「今さら自分の国の過去の恥部を暴いて何になるんだ!?」、そう主張する人もいる。これについては、パンフにあった以下の一文を紹介したい。

『わが国で「戦争」といえばアメリカとの太平洋戦争であって、中国との戦争ではなかった。マス・メディアでも、真珠湾攻撃からヒロシマ、ナガサキを経て敗戦に至る戦争はそれなりに取り上げられたけれども、日本軍が中国大陸で何を「してしまった」のかについては、タブーがあって触れられないようだった。
強制連行で奴隷のように働かされた者や、元従軍慰安婦だった者が、年老いた最後の証人として告発すると、それは金欲しさに捏造(ねつぞう)された話であるとして取り合おうとはしない。
「南京大虐殺はでっち上げ」「侵略でなくアジア解放の戦争だった」「朝鮮も台湾も植民地ではなかった」「慰安婦も強制連行もなかった」などと叫んで、台頭してきた勢力に対しては、この2時間40分にも及ぶ元兵士たちの凄まじい告白が、力強い反対証言となってくれるだろう』

開戦当時、日本の国民の圧倒的多数はこの戦争を支持し、熱狂さえして戦争に協力した。今は戦争という行為の恐ろしさと愚かさ、戦場の悲惨な実態が明らかにされたにも関わらず、それらの真実を知らないこと、知ろうとしないことは罪悪になるのではと、考えずにはいられない。それでは歴史から教訓を学ぶことが出来ず、犠牲者の死が無駄になる。

終戦から時間が経つにつれ、若い世代は中国での戦争がどういうものだったのかを知る機会がどんどん減っている。大袈裟でなく、すでに皆無に近い。今の若者にとっては、この映画が戦争体験をじかに聞くラスト・チャンスかも知れない。

(P.S.)「残虐行為をした人はほんの一部」とか、「大半の兵士は立派な態度をとった」という意見について。“立派な態度”を取ることのできた兵士は、幸運に恵まれたのだと思う…残虐な行為をしなくてすんだというめぐり合わせの。「戦場では戦犯行為を一度も見なかった」という人もいる。僕はその言葉を否定しない。“その人の周囲では”本当に何もなかったのだろう。

(P.S.2)劇場の係員に、公開中に右翼方面からの妨害がないのか聞いてみた。
「事実を淡々と語っているだけなので、大丈夫みたいです。役者じゃなく、本物の皇軍兵士というのがポイントなのでしょう」との答えだった。なるほどね。

※2001年ミュンヘン国際ドキュメンタリー映画祭特別賞受賞
from : 炎のド名作邦画ベスト333
*本レビューは、「文芸ジャンキーパラダイス」管理人様の許可を得て転載しております。

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